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スタッフ採用に“お礼奉公”の活用

治療院を営む山田さんは、スタッフの採用に頭を痛めています。最近の人手不足もあり、募集しても求職者が来ない、あるいは来てもすぐに辞めてしまうのです。そんな中、同業者の友人は、専門学校の学費を全額、あるいは一部事業者が負担することを条件として働きながら手技療法関係の資格取得を目指す人を採用し、うまくやっていると言っていました。コスト負担にはなりますが、“お礼奉公”採用で一定期間就労してもらえれば元は取れると。さてこれはどのようなやり方なのか。また税務上学費は経費になるのか。せっかく学費負担したのに、“お礼奉公”もそこそこに辞めてしまったら、負担した学費は返還してもらえるのか。

 

“お礼奉公”の仕組み

 

治療院の場合ですと、事業者は、従業員が働きながら柔道整復師、鍼灸師、マッサージ師等事業に直接必要な手技療法の資格の取得を目的に専門学校に通う場合に、この学費はその費用が適正なものである限り事業の経費となり、給与課税もされません。しかしその便宜を受けた従業員がすぐに辞めたりすると元も子もありません。そこで学費の全額または一部を従業員に貸し付けします。そしてその従業員が専門学校卒業後一定期間勤務した場合は、事業者が負担した学費の返還は不要とするものです。

 

学費の貸し付け

 

学費の貸し付け時は後々のトラブルを避けるために契約書を作成しておきましょう。例えば、従業員が柔道整復師の専門学校に3年間通う場合には、入学金、授業料、教科書代等の支払が必要になりますが、それらの支払の内、事業者が負担するものの、負担割合なり負担金額を明記します。返済条件として、返済を始める時期、返済期間、返済金額、支払金利を明記します。返済金額の免除条件として、例えば、専門学校卒業後3年間勤務すれば全額免除する。1年間勤務毎に、貸付金総額の3分の1を免除し3年間で全額免除する等。なお契約書は金銭消費貸借契約書になり印紙の貼付が必要です。

 

貸付金の金利の取り扱い

 

ではこの場合金利はどのように設定したらよいのでしょうか。一般的に従業員に事業者がお金を貸す場合は、一般の金利で貸し付けを行う場合は問題ありませんが、金利をゼロにしたり、一般の金利よりも低い金利で貸し付けた場合は、その通常支払うべき利息相当額またはその利息相当額と実際に支払っている利息との差額が給与として課税されます。しかし、今回の貸付金の返済免除の取り扱いに準じて、返済免除額が非課税になる場合は貸付金の利息相当額も非課税になると考えられます。事業者側では、法人と個人事業で税務上の取り扱いが異なります。法人の場合は、貸付金の利息相当額を受取利息として計上します。個人事業の場合は、事業に直接関係のない貸付金によって生ずる利子収入は事業所得ではなく、雑所得になります。

 

貸付金の返済免除の取り扱い

 

税法上従前の取り扱いでは学費の貸付金を勤務期間に応じて返済免除すると、この免除額は勤務者の給与として課税されていました。具体的な事例で説明しますと、専門学校卒業して1年後に80万円の返済額を免除すると、この免除した月の給与にこの80万円が加算されて源泉所得税も加算され、年間の給与所得にも加算されるということです。事業者側は、一旦80万円給与加算をして、給与支給時に返済額80万円と加算された源泉所得税を控除します。結果として貸付金は給与になり経費処理出来たことになります。
この取り扱いが税制改正により平成28年4月1日以降変更になりました。このような学資貸付金の返済免除について、下記の要件を満たせば給与課税扱いにせず非課税になりました。その要件は、「債務免除が給与その他対価の性質を有するものであっても、給与所得を有する者がその使用者から受けるものにあっては、通常の給与に加算して受けるものであり、当該法人の役員やその親族など一定の者以外の使用人であれば、非課税とする」。具体的には、先ほどの専門学校卒業して1年後に80万円の返済額を免除した場合、この免除した月の給与にこの80万円が加算されますが、非課税扱いなので源泉所得税計算の対象からは外され、同額の80万円が支給額から控除されます。事業者側は結果として全額経費処理できるので従前とかわりませんが、従業員側では返済免除額について所得税の課税が行われないというメリットがあります。給与試算シートを参考にしてください。

 

オープンな“奨学金制度”等を導入した場合

 

これまで述べたのは、特定の従業員についてのみお礼奉公をしてもらう場合です。従業員の人数が増えてくると、治療院職員として職務を遂行する上で必須な一定の資格を有する職員の定着を目的とし、職務内容の水準を維持向上させるために、“奨学金制度”等を設けて、一定の基準を満たした従業員に対してこの制度を適用する場合は、従前より給与課税はしなくてよいとされていました。この場合は、その学費の返還が免除されるまでの間は貸付金として経理し、その返還免除条件を満たしたときに研修費用等として経費処理します。この制度があれば、柔道整復師の専門学校に、「鍼灸師、マッサージ師資格取得支援“奨学金制度”あり」と求人広告を出すことができます。

 

税務上の問題点の解決

 

今回の税制改正前は、前述したオープンな“奨学金制度”等を導入した場合、国税局の公表回答によると、看護師の資格取得のための学資の返還免除額は給与非課税でよい(所得税基本通達9-15)でしたが、医師の場合は、勤務医としてだけでなく、開業医として独立することも可能であること、及び享受することになる経済的利益が多額になることを理由に給与課税になるという回答でした。柔道整復師等の場合はどちらになるのか不明でした。しかし今回の改正で取り扱いが前述したように明らかになりました。

 

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